
住宅の断熱性能は、家づくりにおいて重要な要素の一つです。適切な断熱を施すことで、夏は涼しく、冬は暖かい快適な住環境が実現します。
また、光熱費の節約にもつながるため、長期的な視点で見ると経済的なメリットも大きいといえます。こうした理由から、住宅会社選びの際には、断熱性能が上位のポイントとして考慮されることも多いでしょう。
さらに国も断熱性能を重視しており、2025年には断熱等級4が、2030年には等級5がすべての新築住宅で義務化される予定です(※)。断熱等級とは、住宅の断熱性能を評価する指標の一つで、数字が大きいほど高性能であることを示しています。そして、この断熱性能を大きく左右するのが、断熱材の施工方法なのです。
本記事では、住宅断熱の代表的な施工方法である外断熱と内断熱の違いやメリット・デメリットを詳しく解説していきます。
※参考:国土交通省「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する 基本的な方針の改正案について」
目次
・ 外断熱とは
・ 外断熱のメリット
・ 高い断熱効果
・ 優れた防湿性
・ 高気密性の実現
・ 建築コストが割高
・ 繊維系断熱材
・ 内断熱とは
・ 内断熱のメリット
・ 低コスト
・ 技術面の確立
・ デザイン性の確保
・ 結露の発生
・ 繊維系断熱材
・ 気密性
・ 費用
・ 窓(サッシ)
・ 換気システム
・ まとめ
外断熱とは
外断熱とは、住宅の構造材の外側に断熱材を設置する工法のことを指します。
外断熱工法では、建物全体を包み込むように断熱材を施工するのが特徴です。外断熱の施工方法には、主に「湿式工法」と「乾式工法」の2種類があります。
外断熱のメリット
外断熱には、以下のようなメリットがあります。
高い断熱効果
断熱材が構造材の外側に設置されるため、建物全体を包み込むように断熱することができ、内断熱と比較して優れた断熱性能を発揮します。
優れた防湿性
断熱材が外側に設置されることで、室内の湿気が断熱材に触れにくくなり、結露の発生を抑制できます。
高気密性の実現
断熱材と外壁材が一体となることで、すき間が生じにくく、気密性の高い建物になります。
外断熱のデメリット
一方で、外断熱にはいくつかのデメリットもあります。
建築コストが割高
断熱材を外側に設置するため、施工にかかる手間や材料費が増え、内断熱に比べて建築コストが割高になります。ただし、高い断熱効果によるランニングコストの削減を考慮すると、トータルコストでは内断熱と大差ない場合もあります。
施工できる業者の少なさ
外断熱の施工には専門的な知識と技術が必要とされるため、対応可能な業者が少ないのが現状です。
外壁材の選択肢が限定的
断熱材の上から外壁材を長いビスで留める必要があるため、外壁材の固定強度が弱くなりがちです。そのため、サイディングなどの軽量な外壁材に限定されることがあります。
外断熱に使用される主な断熱材
外断熱に使用される断熱材は、大きく分けて以下の2種類があります。
繊維系断熱材
- グラスウール:ガラスを細い繊維状に加工したもの
- ロックウール:玄武岩や高炉スラグを主原料としたもの
- セルロースファイバー:パルプや古紙を主原料としたもの
発泡プラスチック系断熱材
- ウレタンフォーム:ポリオールとイソシアネートという2つの原料を混ぜて、発泡剤、整泡剤、触媒などの添加剤加えて、化学反応させて作られたもの
- ポリエチレンフォーム:ポリエチレンを主原料に発泡剤や整泡剤などを加えて成形したもの
- ポリスチレンフォーム:ポリスチレン樹脂を発泡成形して作られたもの
- フェノールフォーム:フェノール樹脂を主原料として発泡剤や硬化剤などを混ぜて作られたもの
外断熱にどの断熱材を使用するかは、施工会社によって異なりますが、一般的に外断熱には「発泡プラスチック系断熱材」が使用されるケースが多いようです。
関連記事:断熱材は家を快適に導く重要な要素!ネオマフォームやセルロースファイバーなど断熱材の基礎知識と家づくりで知るべき断熱工法のこと
内断熱とは
内断熱とは、住宅の柱や間柱などの軸組の間に断熱材を入れる工法のことを指します。「充填断熱」とも呼ばれ、木造住宅において、もっとも一般的な断熱工法として知られています。
壁の内側の空間を利用して断熱材を充填するため、厚い断熱材を入れることが可能です。
内断熱のメリット
内断熱には、以下のようなメリットがあります。
低コスト
構造材のすき間に断熱材を充填する工法なので、外断熱のように断熱材を設置するためのスペースを作る必要がなく、施工費用を抑えられます。
技術面の確立
一般的な断熱工法として技術面が確立されているため、施工が容易です。
デザイン性の確保
建物の内側に断熱材を入れるため、外壁が厚くならずデザイン性が損なわれません。
内断熱のデメリット
一方で、内断熱にはいくつかのデメリットもあります。
気密性が外断熱よりも低下
建物の軸組や構造材の部分は断熱されないため、柱や梁、筋交いなどの部分が切れ目となって熱が出入りし、外断熱よりも気密性が低くなる可能性があります。また施工の不具合によってすき間が生じることもあるでしょう。
結露の発生
気密性が低いことから、結露が発生する場合があります。とくに鉄筋コンクリート造の建物では、内断熱によって建物の寿命を縮めるリスクがあります。
配管や配線の場所の変更が困難
内断熱の場合、柱の間を断熱材が埋めるため、配管や配線の場所の変更が難しいというデメリットもあります。
なお、一般的に内断熱は外断熱と比べて断熱性能が劣るといわれていますが、株式会社LIXILのスーパーウォール工法のように、内断熱であっても工夫次第では外断熱に匹敵する断熱性能を確保することも可能です。
内断熱に使用される主な断熱材
外断熱に使用されるものと同様、内断熱に使用される主な断熱材も「繊維系」と「発泡プラスチック系」に分けられます。
繊維系断熱材
- グラスウール:ガラスを細い繊維状に加工したもの
- ロックウール:玄武岩や高炉スラグを主原料としたもの
- セルロースファイバー:パルプや古紙を主原料としたもの
発泡プラスチック系断熱材
- ウレタンフォーム:ポリオールとイソシアネートという2つの原料を混ぜて、発泡剤、整泡剤、触媒などの添加剤加えて、化学反応させて作られたもの
- ポリエチレンフォーム:ポリエチレンを主原料に発泡剤や整泡剤などを加えて成形したもの
先ほど外断熱には「発泡プラスチック系断熱材」を使用するケースが多いと述べましたが、反対に内断熱は「繊維系断熱材」を主に使用します。
外断熱と内断熱の違い
外断熱と内断熱は、ともに住宅の断熱性能を向上させる工法ですが、断熱材の設置場所や気密性、そしてコスト面において大きな違いがあります。
本章では、外断熱と内断熱の主な違いについてまとめてみます。
断熱材を入れる場所
外断熱と内断熱のもっとも大きな違いは、断熱材を設置する場所です。
外断熱
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内断熱
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外断熱は建物の外側から断熱するのに対し、内断熱は建物の内側から断熱するという点が大きな違いです。
気密性
断熱材の設置場所の違いは、気密性にも影響を与えます。
外断熱
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内断熱
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ただし、内断熱でも適切な施工を行うことで、一定の気密性を確保することは可能です。
費用
外断熱と内断熱では、費用面においても違いがあります。
外断熱
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内断熱
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一見するとコスト面では内断熱が有利に見えますが、長期的に考えると、外断熱の方が高い断熱性能を発揮することで光熱費の節約につながり、トータルコストでは内断熱と大差ない、あるいは優位になる可能性があります。
このように、外断熱と内断熱には断熱材の設置場所や気密性、費用などの点で大きな違いがあります。それぞれの特徴を理解し、自分の住宅に適した断熱工法を選択することが重要です。
外断熱と内断熱、結局どっちがいいの?
外断熱と内断熱、どちらを選ぶべきかは、住宅の立地や気候、予算、施工会社の技術力など、さまざまな要因によって異なります。
断熱性能に優れているのは外断熱です。建物全体を断熱材で包み込むように施工するため、すき間が生じにくく、高い気密性を実現できます。寒冷地や豪雪地帯など、断熱性能が重要視される地域では、外断熱が適しているでしょう。
一方、温暖な地域や断熱性能をそこまで重視しない場合は、内断熱でも十分な効果が得られます。内断熱は外断熱と比べて施工が容易で、費用を抑えられるというメリットがあります。ただし、気密性の面では外断熱に劣るため、結露のリスクなどを考慮する必要があるでしょう。
また、建物の構造や施工精度によっては、内断熱の方が適している場合もあります。たとえば、木造住宅では内断熱が一般的ですが、適切な施工を行うことで十分な断熱性能を発揮できます。
結局のところ、外断熱と内断熱のどちらが良いかは、住宅の条件や要望に応じて総合的に判断するのが良いでしょう。断熱性能を最優先するなら外断熱、コストを重視するなら内断熱と、一概にはいえません。
ただし、長期的な視点で考えると、外断熱の方が高い断熱性能を発揮することで光熱費の節約につながり、トータルコストでは内断熱と大差ない、あるいは優位になる可能性があります。
外断熱と内断熱、どちらを選ぶべきかは、住宅の条件や要望に応じて慎重に検討する必要がありますが、断熱性能とコストのバランスを考えながら、自分に合った断熱工法を選択することが大切です。
関連記事:寒い家を暖かくする方法 | 寒さの原因や今すぐできる対策を解説
断熱性能を重視するならダブル断熱がおすすめ
外断熱と内断熱、どちらを選ぶべきか悩ましいところですが、実は両者を組み合わせた「ダブル断熱(付加断熱)」という工法も存在します。ダブル断熱とは、その名の通り、外断熱と内断熱を併用する方法です。
ダブル断熱は、外断熱の高い気密性と内断熱の施工性の良さを組み合わせることで、優れた断熱性能を発揮します。
とくに寒冷地や豪雪地帯では、ダブル断熱がおすすめです。厳しい気象条件下でも、家全体を包み込むように断熱することで、快適な室内環境を維持できます。
なお、ダブル断熱を採用している住宅メーカーの一つに、「家は、性能。」というキャッチフレーズでも知られる一条工務店があります。同社は、外断熱と内断熱を組み合わせた独自の断熱工法を開発し、高い断熱性能を実現しています。
ダブル断熱は断熱性能を重視する方におすすめの工法ですが、施工が複雑で高い技術を要するため、費用は外断熱や内断熱よりも高くなる傾向があります。予算との兼ね合いを考えながら、慎重に検討する必要があります。
とはいえ、長期的な視点で考えると、ダブル断熱の高い断熱性能は光熱費の大幅な節約につながります。イニシャルコストは高くても、ランニングコストを抑えられるため、トータルでは費用対効果の高い投資といえるでしょう。
関連記事:高気密高断熱住宅を建てる5つのメリット
家の断熱性能を左右するそのほかの要素
外断熱や内断熱、そしてダブル断熱など、壁の断熱方法は家の断熱性能に大きな影響を与えます。しかし、断熱材の施工方法以外にも断熱性能を左右する重要な要素があります。
ここからは、住宅全体の断熱性能にとって重要な「窓(サッシ)」と「換気システム」について見ていきましょう。
窓(サッシ)
窓は、壁に比べて断熱性能が低く、熱の出入りが起こりやすい部分です。そのため、窓の断熱性能を高めることは、家全体の断熱性能を向上させるうえで非常に重要になります。
高い断熱性能を実現する窓の一つが「トリプルガラス樹脂サッシ」です。トリプルガラスは、3枚のガラスの間に空気層を設けることで、高い断熱効果を発揮します。また、樹脂製のサッシは、アルミサッシに比べて熱伝導率が低く、結露を防ぐ効果もあります。
トリプルガラス樹脂サッシを採用することで、窓からの熱の出入りを大幅に減らすことができ、結果として家全体の断熱性能を高められるのです。
換気システム
高気密・高断熱の住宅では、適切な換気が欠かせません。換気を怠ると、室内の空気がこもり、湿気やカビ、ホルムアルデヒドなどの有害物質が溜まってしまう恐れもあります。
そこで重要になるのが、熱交換換気システムです。熱交換換気は、室内の汚れた空気を排出する際に、外気と熱交換することで、温度差を小さくします。換気による熱損失を最小限に抑えながら、室内の空気を常に新鮮に保てます。
住宅会社選びの際には、断熱工法だけでなく、窓や換気システムの種類にもぜひ注目してみてください。
まとめ
本記事では、外断熱と内断熱の違いや、それぞれのメリット・デメリットについて詳しく解説してきました。
外断熱は、建物全体を断熱材で包み込むように施工するため、高い気密性と断熱性能を実現できます。一方、内断熱は、施工が容易で費用を抑えられるというメリットがあります。外断熱と内断熱、どちらを選ぶべきかは、住宅の立地や気候、予算、施工会社の技術力など、さまざまな要因を総合的に考慮する必要があるでしょう。なお、断熱性能を重視するなら、外断熱と内断熱のメリットを兼ね備えたダブル断熱もおすすめです。初期費用は高くなりますが、長期的には光熱費の節約につながり、快適な住まいを実現できます。
断熱工法選びは、家づくりにおける重要な決定事項の一つです。本記事を参考に、自分の住まいに最適な断熱工法を選択し、快適で健康的な住まいづくりを実現してください。
埼玉県に拠点を置く「さいが設計工務」は、地場工務店として土地選びからアフターフォローまで住宅購入を全面的にバックアップしています。
断熱性や気密性といった住宅性能を重視しており、「ダブル断熱」「トリプルガラス樹脂サッシ」「第一種熱交換換気システム(ダクトレス)」を標準仕様として提供しています。住宅性能を重視した家づくりを得意とする工務店をお探しの方は、さいが設計工務に相談してみてはいかがでしょうか。
>>【公式】埼玉・東京都西部の高気密高断熱注文住宅ならさいが設計工務
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筆者プロフィール 【ライター&ファイナンシャルプランナー:武田有】父が一級建築士であることから、幼少期から建築業界に親しみを持つ一方で、大学では数学(専門は位相幾何学)を学んだ多彩なバックグラウンドを持つ。現在はWEB業界での活動と並行して、金融から教育まで幅広いジャンルで執筆活動を展開。2級ファイナンシャル・プランニング技能士の資格も活かし、金融分野での深い洞察も提供。一般家庭が直面する住宅関連の課題やニーズに対応する実用的なコンテンツをお届けしています。 |